2018年の終わりに – 代表青砥より御礼の言葉
こんにちは。コミュニティ・カフェ EMANONを運営する(一社)未来の準備室 理事長の青砥と申します。(高校生からはふつう、”しつちょう”と呼ばれています。)
12月29日の交流パーティをもって、2018年内のコミュニティ・カフェ EMANONの営業・事業を終了しました。1年を通じて、カフェの事業にご協力、またカフェを楽しく豊かにご利用いただいたすべての皆様に、感謝いたします。上記の写真は、白河市のフラワーショップいくたさんに作っていただいたホリデーシーズンの飾り物です。みなさまの次の1年が、幸せであるようにお祈りしております。
さて、EMANONのことを少し、お礼も兼ねて思い起こさせていただければと思い、ここに2018年のことを少し書きます。思えば2018年は、新しく、区切りの多い1年でした。
まず、EMANONのリノベーション作業をともに行なった、当時1年生だった高校生たち。彼ら・彼女らがついに進学・就職の時期を迎えました。
その分、新しい高校生との出会いも多くあった1年でしたが、新春から春本番にかけては、その集大成とも言える出来事が、偶然にもいくつか重なったことが印象的な1年間でした。
1つは、内堀雅雄福島県知事の訪問です。
- <地域課題:大学をはじめとする高等教育機関の不在による地方の衰退>
- <社会課題:シルバーデモクラシーに象徴される若年層社会参画の困難さ>
- <当事者の課題:地方の若者の居場所の脆弱さ、地方の若者のキャリア教育機会の希少さ>
大きく3つの課題意識をもってこのコミュニティ・カフェ EMANONという居場所を作って来ました。そのどれもが、政治・行政・社会との対話を抜きにしては、到底解決のできない問題です。目の前の高校生が抱えている困難さは、高校生をとりまく環境を作る社会・地域・大人が生み出したものです。それらは氷山の一角で、様々な偶然の積み重ねの先に、私たちの目の前に現れているに過ぎません。
対処療法でもいい、地方の小さな街から、それらの課題解決のモデルを作ることができれば、と考え、ただ目の前のことに取り組んできました。社会の多くの人たちがいつか、地方の高校生・若年層を取り巻く困難の除去こそ、社会全体をよりよい方向に導く最優先課題だと考えてくれる、その望みをもって目の前のことに取り組んで来ました。
そのように考えている私たちにとって、内堀県知事がこの小さな古民家カフェに足を運んでくださり、高校生の声に耳を傾けてくれたことの意味は、これからも未来の可能性を信じて、このチャレンジを続けて行こうとする勇気をいただいたことでした。
もう1つは、ある論文が単行本に掲載されたことです。
『包摂でデザインする平和な社会––ノルウェーからの学びを通じて』(鈴木庸裕編著『学校福祉とは何か』(ミネルヴァ書房)所収)と題したこの論文は、福島大学大学院の研究者兼ソーシャルワーカーであった沢田安代氏が執筆したものです。ノルウェーの子どもたちの姿と、それを守る福祉・教育制度を題材に、わたしたち大人が、平和な社会づくりに向けて包摂という概念をいかにして実践すべきか、を問いかけたものになっています。
この、社会と子ども・若者をめぐる論文の中で沢田氏は、次のように締めくくります。
“今という状態は偶然の結果であるが、今をどう生きるか、扱うかによって、次の偶然の結果たる未来は変えられるという視点をもつことが大事ではないだろうか。特に、子ども・若者に対しては、大人がアンテナの種類と方向性を子ども・若者が参加する社会という価値に根差したものに変換すること、また子ども・若者からの信号をキャッチしたら、改善のために行動することが重要である。これからどのような社会になるかは、大人が、包摂された社会の強さや幸せを、どれだけ信じられるかにかかっていると言えるだろう。”
沢田氏は、同著の著者紹介で「コミュニティ・カフェ EMANON ユースアドバイザー」という肩書きを記してくださり、この論文を執筆されました。白河実業高校とのひよっこプリンプロジェクトや、参議院選レビューをはじめとして、EMANONの目の前の高校生との実践的な取り組みを、ソーシャルワークにおける個別支援の例として理解し、支援してくださった最たる人物が、沢田氏です。
沢田論文が、その結語で志す”包摂された社会”と”その強さと幸せを信じる大人たち”の例として、EMANONを捉えてくださったことに、大きな勇気をもらいました。EMANONの高校生たちや、それを囲む地域の大人・大学生とも積極的に関わってくださった沢田氏が、このような形でその実践を社会に伝えるために筆をとってくださったことは、この春の大きな節目のひとつでした。
すべては偶然に過ぎず、その理由は文字通り神様にしかわからず、受け入れがたい事実ですが、この論文の収録された書籍の出版日のわずか1週間後、沢田氏は不意の病によって帰らぬ人となってしまいました。理論と実践、そして未来への希望を、それぞれ強く願い支援したソーシャルワーカーが福島にいたことが、これまでの積み重ねを勇気付ける、大きな節目の出来事でした。この文も、彼女へのお礼のひとつとして、返させていただければ嬉しいと思っています。若者と関わろうとするワーカーや実践者が、沢田論文を参照する機会があるように願っています。
さて、コミュニティ・カフェ EMANONは、高校生びいきを掲げて、普段から営業を続けています。
いくつも、続けてきたことが、また次の新しい取り組みに姿を変えて、形になりました。特に、大人ではなく、高校生や、高校生だった大学生が、いくつも新しい取り組みに挑戦してくれたことがありがたいです。
元高校生の鈴木萌さんが、進学した先で、宇都宮大学の石井大一朗教授を紹介してくれました。EMANONを経験した高校生が、コミュニティやまちづくりを積極的に学ぼうとしていることが、とても嬉しいです。
白河高校の鈴木朝登さんが、福島南高の小野さんと一緒に始めたOne Teens!というプロジェクトが生まれ、はじまりました。まだまだはじまったばかりですが、自ら行動する高校生が街にいる風景は、数年前まで考えられませんでした。(福島県の社会活動コンテストにもエントリーしました。)
裏庭編集部と、彦根東高校の4年目になった交流事業を、白河出身でふたば未来学園2年生の渡辺美友さんが「私が大好きで大切なふたつの場所を繋げ」たいという想いで学びあるものにしてくれました。「地元である白河の子達が来てくれて考え」る機会、彦根東高の藤村先生曰く、「福島の取材をして7年になるけど、1番っていって良いほど濃い」取材、そのような時間を作ってくれたことに感謝です。
あまりに多くの高校生と、その高校生を支援しようとする人たちに恵まれ、すべてを振り返ることもできませんが、すべてのみなさんに等しくお礼を伝えたい気持ちに代わりはありません。
高校生と積極的に関わった湯澤魁・京野未来・戸澤佳美をはじめとする新しいスタッフ。
白河でゼミ合宿を企画・実施してくださった、法政大学メディア社会学部の藤代裕之教授と、藤代研究室メンバー、そのOBである沼能氏。
復興庁のインターンを通じて、地方の高校生の通学にまつわる困難さを調査した高田と、その支援をしていただいたNPO法人コースターのみなさま。
裏庭編集部の活動に参加してくださった高校生たちと、その支援をしていただいたi.clubの小川さん。
そしてもちろん、いつも支援をしてくださる鈴木和夫白河市長と、白河市企画政策課、そして市民・地域のみなさま。
まだまだ挙げてもキリがありませんが、本当に1年間、多大なるご支援ご協力を、ありがとうございました。
私たち自身も次の1年は、現在の地域社会の問題点と可能性に改めて向きあい、今以上に包摂の広がる、地方の若者・高校生が自由な価値観とチャレンジの機会を享受できる未来に向けて、新しい事業に取り組む所存です。
拙筆ゆえ、長い文になってしまいました。改めて、2018年中の関係者のみなさまのご協力に感謝いたします。また次の1年も、どうぞコミュニティ・カフェ EMANONをよろしくお願い申し上げます。
一般社団法人 未来の準備室 理事長 青砥和希
(なおこの内容は、しつちょうブログにも記載しております。http://blue-days.hatenablog.com/entry/2018/12/31/033656 )
(今年の年末パーティの様子です。)